プレシジョンメディシンとは

プレシジョンメディシン(PrecisionMedicine)は日本語で“精密医療”と訳され、個々の患者様の遺伝子や環境、そしてライフスタイルなどの個人的特性を考慮し、予防や治療法の確立を目指す医療です。

これまでの一般的な標準化された治療法とは異なり、個々の患者様の特性に適した治療法を選択する考え方が注目を集めています。

特に2015年1月30日、オバマ大統領(当時)が米国の一般教書演説の中でプレシジョン・メディシン・イニシアティブ(PrecisionMedicineInitiative)を発表したことで、その概念が米国のみならず世界的に普及するきっかけとなりました。
さらに、2016年度の予算案では2億1,500万ドルを要求し、100万人以上のボランティアが参加する研究コホートの開発費やその他データベース開発促進などに充てられる など、その動きにますます注目が集まっています。

プレシジョンメディシンはあらゆる疾患に適用可能ですが、中でもがん領域においては顕著な進展が見られます。
がん領域におけるプレシジョンメディシンでは、「次世代シークエンサー」と呼ばれる遺伝子解析装置によって遺伝子情報を解析し、がんの原因となる遺伝子変異を特定します。
その情報を基に作られた分子標的薬を投与することで、がんの遺伝子の特徴や患者様の状態に応じた最適な治療法を個別に決定することが可能となります。

遺伝子パネル検査とは

がん細胞の特徴をゲノム解析によって網羅的に調べ、がんと関連する多数の遺伝子の 状態を確認する検査を「遺伝子パネル検査」と呼びます。
がんの原因となる遺伝子は、個々人によって異なるため、どのような遺伝子変異が起き ているかを調べる必要があります。がん組織の一部や血液などを採取し、次世代シークエンサーを用いて1度に多くの遺伝子を同時に解析し、がんの原因となる遺伝子変異を特定します。

遺伝子パネル検査では、通常がんの組織の一部を使用しますが、近年、血液検査からがんの遺伝子を解析できる「リキッドバイオプシー」が登場しました。
リキッドバイオプシーは、血液中に流れ出すがん細胞やがん由来のDNAを検出し、遺伝子解析を行うもので、手術による生検が難しい再発や転移したがんの患者様や、がん組織の採取が難しい状況の患者様でも体への負担が少なく検査を行うことができます。

分子標的薬とは

がんの進行・増殖にかかわる分子(タンパク質)を標的とし、その働きを遮断することで、治療効果を発揮する薬剤です。

従来の抗がん剤治療は、主に臓器別に過去の統計から有効だと考えられる薬剤を試していくやり方で、実際に患者様へ投与してみないとその患者様に効果があるのかはわかりませんでした。
一方、プレシジョンメディシンでは、がんの原因となる患者様の遺伝子変異を特定することで、その遺伝子変異に応じた有用性が高いと考えられる薬剤で治療を行うことができます。

分子標的薬のメリット

  • がん細胞のみを標的とするため、副作用が出にくい
  • 多くが内服薬であること
  • 治癒効果がある程度予測できる

遺伝子検査を行っても、遺伝子変異が見つからない場合もあります。
また、遺伝子変異があっても薬剤がない場合もあります。

プレシジョンメディシンで使用する薬剤(分子標的薬)の副作用は薬剤ごとに異なります。

がん薬物療法専門医とは

がん薬物療法専門医(日本臨床腫瘍学会認定専門医)は、日本臨床腫瘍学会が認定する学会認定専門医制度の一つです。

がんや肉腫、血液腫瘍などの悪性腫瘍に対する薬物療法(化学療法、抗癌剤治療)において高度な知識や技量、経験を持つ医師に与えられる資格のことです。
すべての臓器の腫瘍を横断的に診療することができており、いわば、抗がん剤や分子標的薬のスペシャリストとなります。
2023年4月1日現在、全国約1700人が認定されています。